深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

深い河/遠藤 周作〜それぞれの人生、人間の深い河の悲しみ〜

《内容》 喪失感をそれぞれに抱え、インドへの旅をともにする人々。生と死、善と悪が共存する混沌とした世界で、生きるもののすべてを受け止め包み込み、母なる河ガンジスは流れていく。本当の愛。それぞれの信じる神。生きること、生かされていることの意味…

湖の女たち/吉田 修一〜女のなかには自分を破壊しようとする衝動的な力がある〜

《内容》 琵琶湖近くの介護療養施設で、百歳の男が殺された。捜査で出会った男と女―謎が広がり深まる中、刑事と容疑者だった二人は、離れられなくなっていく。一方、事件を取材する記者は、死亡した男の過去に興味を抱き旧満州を訪ねるが……。昭和から令和へ…

ミスト/スティーヴン・キング〜壮大な美が存在ように暗黒と恐怖が存在する〜

《内容》 「ミスト」として映画化され、TVドラマ化もされたスティーヴン・キングの代表作「霧」。スティーヴン・キング通が口をそろえて、「はじめてキングを読むのなら『霧』から」とオススメするホラー史上に残る傑作です。この「霧」を収録したキングの短…

正欲/朝井リョウ〜自分の中の「たった一つの異質」が、自分を孤独にする〜

《内容》 自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重…

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選〜生きのびるための物語〜

《内容》 村上春樹が心をこめて贈る、12の「パーソナル・ベスト」。レイモンド・カーヴァーの全作品の中から、偏愛する短篇、詩、エッセイを新たに訳し直した「村上版ベスト・セレクション」に、各作品解説、カーヴァー研究家による序文・年譜を付す。 とあ…

嫉妬/事件/アニー・エルノー 〜最大の苦しみと最大の幸せは他者に起因する〜

《内容》 「嫉妬」別れた男が他の女と暮らすと知り、私はそのことしか考えられなくなる。どこに住むどんな女なのか、あらゆる手段を使って狂ったように特定しようとしたが……。盲執に取り憑かれた自己を冷徹に描く。「事件」1963年、中絶が違法だった時代のフ…

大きなハードルと小さなハードル/佐藤泰志〜ままならない己を抱えながら生きていかなければならない苦しみ〜

《内容》 若くして小説家デビューするも、その後は鳴かず飛ばず、鬱屈とした日々を送る慎一。そんな彼のもとに、友人の元妻、裕子が、幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一は、自らの無様な姿を、夜ごと終わりのない物語へと綴ってゆく。一方の裕子は…

きみの鳥はうたえる・草の響き/佐藤泰志〜人の気持ちに触れないと言った旗持ちの少年の言葉は本当だ〜

《内容》 郊外の書店で働く「僕」といっしょに住む静雄、そして佐知子の悲しい痛みにみちた夏の終わり…世界に押しつぶされないために真摯に生きる若者たちを描く青春小説の名作。読者の支持によって復活した作家・佐藤泰志の本格的な文壇デビュー作であり、…

スカイ・クロラ/森博嗣〜深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ〜

《内容》 大人になれない僕たちは、空で戦うことしかできないのだ――永遠の生命を持つ子供たち「キルドレ」が戦争を請負う社会。戦闘機乗りのカンナミは、日々指令を受け空へ出勤し、夜は同僚たちと歓楽街へ出かける。生死とは、そして自我とは何かを問う森博…

ケルトを巡る旅 -神話と伝説の地/河合 隼雄〜ままならない自然の力が生き抜く強さの糧となる〜

《内容》 キリスト教以前のヨーロッパに存在したケルト文化。ケルト人は文字を持たず、歴史を書き記すこともなかった。しかしアイルランドやイギリスの文化には、その影響が今なお色濃く残っている。自然と共に生きたケルト人。自然から切り離された現代文明…